これまでの楽しい映画の話をしよう(十三人の刺客/ガフールの伝説/ナイト&デイ/エクスペンダブルズ)

失敗作の欠点を指摘して溜飲を下げるというのはあまり上品なことではないので、楽しかった映画の話だけします。

十三人の刺客:★★★★
武士道だの侍だのかこつけても、実際殺し合いになったら泥まみれ、血まみれでみっともなくただひたすら必死にならねばならないのだ、ということを終盤50分ちかくかけて延々と描いた力作。変に現代的なテロリズム思想への是非などを問わず(「桜田門外ノ変」のことだ)勧善懲悪に徹しているところが潔い。そういう意味で稲垣吾郎を同情の余地のない鬼畜に仕上げた脚本は見事。この人感情のない役やらせると光る。
行燈の明かりだけを活かしたライティング、朝もやの神秘性、雨と映像デザインも優れている。実は十三人いる刺客のうちその半分は賭場に一瞬だけ姿を見せる福本清三ほどの印象も残らないのだが、現在の役者の線の細さだろうか。三池組から遠藤憲一北村一輝あたりを刺客に呼ぶと印象が随分違ったかも。岸辺一徳の役どころは石橋蓮司だよね。大杉漣は老中あたりでどうか?そうなると竹内力哀川翔が欲しくなるところだが、それをやると作品がのっとられるので、やらなくて正解。松形弘樹は年齢を感じさせない殺陣の凄みを見せる。GPミュージアムの作品ばかりに出てもうだめかと思ったが、まさかこんな形で大作に復活してくれてうれしい限り。三池監督としては「スキヤキウェスタンジャンゴ」で作った大きな負債を見事に返した作品といえるかも。しかしこの企画は本来東映が面倒見なきゃいかんよね。


ガフールの伝説(3D吹替):★★★☆+☆
意外な拾いものである。ザック・スナイダーの監督作品ということを考えるとこれ以上は求められないぐらいの良品じゃないだろうか(「ウォッチメン」も「300」ものれなかったので)。
ヒックとドラゴン」もそうだったけど、3Dと飛翔シーンの相性のよさを証明するような作品。この臨場感は2Dでは再現できないだろう。
物語自体は実は人間に置き換えて「神話の再発見」の物語とすることも出来るのだけど(それは「300」が神話的なヒーローの物語の再発見であり、「ウォッチメン」がアメコミヒーローの神話性の再構築だったのと同じなのだが)、フクロウにこだわることによって戦術の飛行シーンのダイナミズを生み出すことが出来た。
「300」では戦争の美化というマッチョニズムに少なからず違和感を持ったのだけど、今回の作品では伝説のヒーローをして「きれいな戦争などない」といわせることによって、その反省をしている面があり好感が持てる。
吹き替えに関しては榊原良子の氷ような冷たさを持った悪の女王に尽きる。気高く冷酷で計算高い女をやらせたらこの人の右に出る人はいないだろう。永井一郎もここぞというところに登場し、吹き替えのクオリティで+☆。主演も意外に悪くなかった。


ナイト&デイ:★★★☆
楽しいスタア映画。スターにお金を払う価値という意味について考えさせてくれるという点では「エクスペンダブルズ」に近い。明らかに「ミッション:インポッシブル」のイーサン・ハントのパロディキャラなので、主役のスパイにはトム・クルーズ以外適切な役者が思い浮かばない。浮世離れしたセカイに迷い込むラブコメキャラという点でキャメロン・ディアスの配役も見事。難しいことは考えず流れに身を任せ、スターの華麗な姿をめでるという「だけ」の映画で、背景に政治的なものなど何も存在しないというひとつ昔の映画ともいえるが、そんな映画がたまにあってもいいじゃない。しかし拘束中のスパイが危機を乗り切るシーンを朦朧としたヒロインの視点でブラックアウトさせて省略するなんて大胆な作品だ。


エクスペンダブルズ:★★★
映画の出来としては同じスタローン監督の「ロッキー・ザ・ファイナル」や「ランボー 最後の戦場」などより数段落ちるのだけど、見る前からこんなにワクワクした経験はいつ以来?スタローンとシュワルツネッガーの競演(しかもブルース・ウィリスのおまけつき)シーンを演出できるのはよっぽどのコントロール能力のある人にしか出来ないと思ってたけど、それをスタローン自身がしてしまうところがスタローンの俳優兼監督としての能力の優れた部分ではないだろうか。ほかの監督だったら絶対まとめきれないよ。
映画としてはあまりに直球(女のために独裁者倒しに行くぜヤッホォ)なんのひねりもなく、なんの驚きもないのだけど、これはスタアが一堂に会することに意味がある映画なので欠点とはならない。アクション映画の背景に何の政治的なコンテクストも存在しなかった一昔前のアクション映画へのノスタルジイ。それをアナクロニズムととらえるかどうかは観客次第で、自分はそんな映画があってもよいと思った。
それよりも「ランボー」に引き続き近年のスピルバーグばりに人体破壊シーンにこだわるスタローンのいままで見られなかった変態性が垣間見られて興味深かった。この人65才すぎてどこに向かうんでしょ?