アンストッパブル再見

アンストッパブル:★★★★
監督:トニー・スコット

1月に劇場で見たときは不覚にも舟をこいでしまったので、これはもしや作品に問題があるのかと思ったものの、DVDで再見したら問題は自分にあったということを実感。傑作じゃないですか。とりあえず今年のベストワン候補入り決定。

仕事をちゃんとする人をひたすらかっこよく撮る映画。トニー・スコットは毎度こういうテーマがありますな。アルチザンを称えるというか。逆に仕事をちゃんとしない人たちはどこまでも愚かしく描かれる(最後ファストフード業界に転向する問題の社員とかね)。これは初見時にも気づいたのだけど、やはり強い父性についての話だった。妻との接近が許されず、子供を遠くから見ていることしかできないクリス・パインは命がけの男らしい仕事をすることで失われた父性と尊厳を取り戻す、というつくり。もちろん仕事に命を懸けるデンゼル・ワシトンはかっこよく描かれてます。命を懸けたミッションの最中に少しずつ距離を縮めてプライベートな話をしていくクリス・パインデンゼル・ワシントンの描写も的確でお見事。

結末はわかりきっているのに手に汗握る展開で、サスペンス描写がお見事な一本。お勧めです。

クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ黄金のスパイ大作戦

クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ黄金のスパイ大作戦:★★★☆

監督:増井壮一
脚本:こぐれ京

クレヨンしんちゃんの映画が好きでここ最近はコロコロ変わる監督と脚本に期待を抱きつつがっかりして劇場を去ることを繰り返してきた諸君、今年は安心したまえ、今年は面白いぞ!
スパイ映画の姿を借りた今年の映画のメッセージはただひとつ、「大人はおかしい」という明快なもの。今、日本で、福島で起こってることを予見してたんじゃないかといえる子供から見た大人への痛烈な批判だ!...とったら大げさかしら。

閑話休題。今年はギャグがちゃんとギャグとして成立し、何よりお話が一本筋が通っていて(それが上にあげたメッセージである)最後までグダグダにならなかっただけでも評価したい。黄金期のアクションに比べると黄金期ほどのメリハリはないのだけど、そこは増井監督は劇場映画の監督初めてということに免じて目をつぶろうじゃあないか。
本当に下品な作品なんだけど、でもクレヨンしんちゃんって本来そういう作品でしょうよ。親子愛とかなんとか感動させるような要素って後から付いてきたものであって、これが本来あるべき姿だったんじゃないですかね、違いますか、そうですか。
作品のテイストとしては初期の「ブリブリ王国の秘宝」に「ヘンダーランド」のキャラをミックスしたような感じでしたな。本郷テイストが近いというか。3週間で公開は終わるので迷ってる人はGW中に劇場へGO!(玄田哲章の声で)。

エンジェル・ウォーズの感想を書く資格が無い

若干ネタバレアリ



エンジェル・ウォーズことサッカーパンチを見たのですが、他の感想サイトを見るまで精神病院が売春窟兼劇場になっていて、ベイビードールが踊ると空想世界に入る、という構造だと思ってました。実際は売春窟兼劇場も精神世界で、スコット・グレンのいる戦場は精神世界の下のさらなる精神世界だったわけですね。コレ理解してないことには感想書いてもトンチンカンなことになるわけで、自分にはこの作品語る資格が無いな、と思った次第。

しかしですね、第一層の売春窟兼劇場と第二層の戦場がリンクするシーンというのが中盤に一箇所あるんですが(厨房のシーン)、コレに該当する現実(精神病院)と第一層がリンクするシーンってのがないわけですよ。ラストは第二層から直で現実に飛んでるので、第一層が現実だと勘違いしちゃったわけですね。本来なら第一層と第二層がリンクしてることを提示するシーンを前半にもっとわかりやすい形でいれなきゃいかんのではないかなあ。それとも自分の理解が悪いだけでちゃんとあったのかしら?

ヒアアフター/英国王のスピーチ/トゥルーグリット

ヒアアフター:★★★
地震の前に公開されてよかったよかった。今見たら感想全然違うものになるよ。
80歳超えたイーストウッドが死を意識して作ったのかと思ったら、最初にこの脚本に興味を持ったのはスピルバーグだったそうな(キネ旬のインタビューより)。スピルバーグといえばもはや黒いほうのスピルバーグのイメージがパブリックイメージになりそうなぐらい常に死を意識的に映像化してきた人で、同じく死者の世界と現世の係わり合いを描いた「ラブリーボーン」の製作もしていることから、彼がこの脚本に興味持ったというのも納得である。やはり死に囚われてるのだろうか。
死んだらどうなるのか?という誰もが持つ疑問を3人の視点から描き、それが1本の道筋を作っていくというつくりなのだけど、そのいづれからもキリスト教的なにおいがしないのが面白いところ。この作品をまとめているのはキリスト教ではなく、むしろマット・デイモン演じる主人公が愛するディケンズである。ディケンズの生涯や作品を知っていると、この作品にぼんやりとしたイメージしか持てなかった人もきりりとした明確なイメージがつかめるのではないだろうか(例えばディケンズ列車事故で死にかけたというエピソードとかね)。
最近のイーストウッド映画に目立つ「救済」が今回もひとつのテーマとなっている。死に囚われた3人がどのように心の救済を得るか、それがこの映画の主眼。死に囚われた人間が生きることの喜びを得る第一歩をエンディングではやや誇張的に描いているけど、それは観客に対しての「今を大事にしろよ」というイースウッドからの力強いメッセージなのではないだろうか。


英国王のスピーチ:★★★☆
今年のオスカーの有力候補はこの作品と「ソーシャル・ネットワーク」だったわけだけど、きしくも「コミュニケーションの問題」という点でこの2作は共通項が多い。「ソーシャル・ネットワーク」は頭の回転が速すぎて人とのコミュニケーションがあまり上手にとれないタイプの人間だったのに対して、本作品では吃音症のために人とのコミュニケーションをとることを避けるジョージ6世が主人公である。「ソーシャル・ネットワーク」は最先端のコミュニケーションであるフェイスブックの創設をめぐる話であるのに対して、本作品は人間のコミュニケーションの最も原始的なスピーチ、あるいは会話をめぐる話である。ジョージ6世が吃音になった原因もコミュニケーションの問題によるところが多い。父親からの一方的・高圧的なコミュニケーション(左利きやX脚の強制といった抑圧も含まれる)による自信の喪失、兄とのディスコミュニケーション。親子の、あるいは兄弟の「会話」がもっと健全であったならば、ジョージ6世の吃音の問題というのはなかったんでないかな、と想像する。一方で彼とジェフリー・ラッシュ演じるオーストラリア人のカウンセラーのコミュニケーションは驚くほど健全だ。なにしろファーストネームで呼び合うところから始めてしまうのだから。形から入り、やがてお互いの間に信頼を築き、最後に吃音は克服される。これも健全なコミュニケーションがあったからこそ。
オスカー会員がこの作品を最も優れていると認めたのは、単にフェイスブックという最先端の技術が理解できなかった、などというつまらない理由ではなくて、コミュニケーションが最後までうまくとれない人間の歪んだ成功の物語よりも、健全なコミュニケーション(と精神)を取り戻していく一人の王様の姿を近しく感じたからではなかろうか。


トゥルーグリット:★★★
本編始まる前の予告(「カウボーイ&エイリアン」「スーパー8」「トランスフォーマー3」)が全部スピルバーグ製作で、本編もまたしかり。働きもんですな。
で、本作。神罰のない西部の街で法律の力を信じる少女の話だった。父親を殺された少女は何かあるたびに法律や弁護士の名前を引き合いに出すのだけど、最終的に物事に(というか復讐に)ケリをつけるのは暴力であるところが西部劇の論理か(その復讐自体が金を払って保安官を雇うという法律に基づいたものなのだけど)。
コーエン兄弟なのに非常に手堅い西部劇のつくりで、とっぴなところがほとんどなかったのが驚き(マタギの歯医者のくだりは変だったが)。こういうオーソドックスな作品も撮れるのね、というのが正直なところで、それ以外は淡々としていて驚きはなかった一本。

ラブホテルに泊まる

12日の地震ですが、被害に遭われた方々には心よりお見舞い申し上げます。

さて、私のほうはどうだったかというと、地震が起きた瞬間は東京の職場で棚卸しをしていて、揺れが終わった後も淡々とその続きをしていました。うちの会社は社長合わせて3人しかいない小さな会社なのですが、もう一人の社員であるところの取締役も、揺れが収まった後は銀行と電話でやりとりを淡々としてました。社長だけは事態を深刻に受け止めていたみたいで、「今日はもういいから早く帰りなさい」と仰る。それじゃ帰ろうかと思ったものの、JRも地下鉄も完全停車とのことでこりゃ今日は帰れんな、と宿探しをしました。

私の働いているところはビジネスホテルが近くにあるのでまずはこちらにアタックをかけるもののもう満室。あとは駅前のラブホ街しかないよ、ということで人生初のラブホ宿泊を体験してきました。

1泊17880円。数件廻って大体これくらいの値段。23時前に泊まるとお休み代と宿泊代を取るのでこうなるのが普通らしい。部屋の中をいろいろと妄想してたんですが、意外にこざっぱりとした印象で全然いやらしくないです。広さは10条以上。普通のホテルと違うところはお風呂がジャグジーなことと、TVにアダルトチャンネルが無料ではいること、カラオケ完備、といったところでしょうか。

あー、あともう一個あった。TVが尋常でなく大きい。電気屋で一番40インチ以上はあった印象。いやー、地上はデジタルってホントきれいなのね。

翌日地下鉄乗り継いで家に帰ったのが11時ごろ。部屋はこれまで集めたCDとDVDとコミックとスピーカーが崩れ落ちて足の踏み場もない状態。この国に住んでる限り、オタクであるということはそれだけで死ぬ確率を高めるのかもしれない。当日家にいたらスピーカーにつぶされて他と思うとぞっとする。ちなみにこのスピーカー、コーンが破れてしまったので泣く泣く廃棄することに。今度は小さいの買います。

*後日電子辞書の破損を確認

すれ違い生活

任天堂の3DSを発売日に買って以来すれ違い通信を通勤中に行っています。このサイトの宣伝もしてるんですが、果たしてどれくらいの人がこのサイトにたどり着いたでしょうか?
3DSそのものは実は1月に幕張メッセで開かれた展示会で実物を触っていたので、手に取った驚きというのはそれほどなかったのだけど、すれ違い通信という新しいコミュニケーションツールの面白さには感心しました。さしあたりストリートファイターをプレイしているところですが、元々DSライトユーザーだったので、広くなった画面でメテオスなんぞもポチポチやっております。

RED/レッド あしたのジョー

RED/レッド:★★★☆

『エクスペンダブルズ』から筋肉を抜いて演技派を足した感じの楽しい映画。RED(引退した超危険人物)ことブルース・ウィリスが狙われる背景には現在社会とのなんの繋がりも、政治的な含みも考えさせられることもないのだけど、これはベテラン俳優が方の力を抜いて(モーガン・フリーマン)、あるいは怪演ぶりをいかんなく発揮して(マルコビッチ!)、無茶してくれるのをめでる作品なので不問。
レベッカ・ピジョンをダンナのデビット・マメット映画以外で初めて見た気がする。ブルース・ウィリスはまだまだアクションいけるという印象なので、『エクスペンダブル2』では大暴れしていただきたい次第。


あしたのジョー(の力石):★★★★★
いや、日本でこれだけのデニーロ・アプローチできる役者ってのはそうそういるもんじゃないですよ。っていっても段平やった香川照之のことじゃないよ。あれは役者が漫画になっちゃってる。漫画を役者の側に引き込んでるのが力石を演じてる伊勢谷友介。体の動きの切れはいいし、なにより減量シーンのすさまじさは線がたくさん入ったアニメ版よりも鬼気迫るものあり。というわけで怪演と快演の間に挟まれたジョーを演じた山下智久はかなり損だったかな。世にすねてたというけど、そんなところ微塵と見せず単に演技が足りなく見えてしまった。
映画自体は★★★ぐらいの出来。ジョーがこぎれい過ぎてどんな人間なのか最後までよくわからなかった。あとエピローグ長すぎ。あそこまでやるんだったら、何故ジョーがドヤ街に戻る気になったのか、そのキッカケを描かないとイカンでしょ。