スピード・レーサー

スピード・レーサー(Speed Racer)
★★★★
監督&脚本:ウォシャウスキー兄弟
音楽:マイケル・ジアッチーノ
出演:エミール・ハーシュ, クリスティーナ・リッチ, マシュー・フォックス, スーザン・サランドン, ジョン・グッドマン

つい先日NHK衛星第一チャンネルのドキュメンタリーでアメリカの穀物メジャーの話を扱っていました。要は大資本の穀物メジャー穀物市場を牛耳っているために、どんなに個人農家が抵抗したところで、遺伝子組み換え穀物を導入せざるを得ない、という話でした。

何故こんな話を持ち出したかというと、ウォシャウスキー兄弟の『マトリックス』(の1作目)が、身の回りに漠然と存在する社会を支配する「システム」への抵抗を描いた作品だったからです。その「身の回りに漠然と存在する社会を支配するシステム」というのを具現化するのが『マトリックス』の場合はコンピューターによる人間の電脳支配だったわけですが、これがファシズムにすりかわったのが、彼らが脚本を手がけた『Vフォー・ヴェンデッタ』だったのではないかな、と思います。そして『スピード・レーサー』もやはり同じ構造を持っている作品であると言えます。カーレースという皆が心を躍らせる競技を裏で牛耳っている「巨大資本」。「巨大資本によるカーレースの支配」に対する抵抗。この二つの軸がNHKのドキュメンタリーのことを思い出させました。

マトリックス』がそうであったように、『スピード・レーサー』でも「巨大資本による支配」への抵抗の狼煙を上げるのはオタクです。今作品の場合はカーキチ野郎。ウォシャウスキー兄弟のオタク精神はオタクこそが世界を変える秘めた力を持っているのだ、と揺ぎ無い思想を作り出しているように思えます。
しかし『マトリックス』と決定的に違うのは、今作品はオタクを支える家族が抵抗に参加してくれていることではないでしょうか。もちろんそれはオリジナルの『マッハGO!GO!GO!』に倣ったものに過ぎないのかもしれませんが、ここに作家としての兄弟の成長を見出すことが出来るかもしれません。オタクはその特異な性格ゆえに孤独になりがちですが、それを心から後ろ盾してくれる家族がいる。その描写に何故だか涙が流れました。

映像的にはマリオカート+F-ZERO+チキチキマシン見たいな感じでとにかく楽しいです。ストーリーも夏の娯楽映画として必要十分な起承転結があって、裏切りもあり、救いもありで、個人的には大好きな作品となりました。

音楽のマイケル・ジアッチーノウォシャウスキー兄弟以上にオリジナルへの敬意を持ってすばらしいスコアを提供しています。この人『エイリアス』といい『クローバーフィールド』といい本歌取りのうまい作曲家だなと思います。今後の活躍にも期待。とりあえず『アストロボーイ』の音楽はこの人でよろしく!