5月の残りの作品

『チェイサー』がみられず無念。

デュプリシティ スパイはスパイに嘘をつく:★★☆
フィクサー』のトニー・ギルロイの新作なので当然期待値は高くなるわけですが・・・、うーん。オープニングのポール・ジアマッティトム・ウィルキンソンの超スローの雨の中での殴り合いで一気にテンション上がるものの、その後それが維持できず最後の仕掛けも不発、という感じです。策士策に溺れるという『マッチスティック・メン』を思わせる作品ですが、演出があれほど身軽ではなくて、無駄にわかりにくくしています。オープニングは事件の後なの?前なの?これでもう一度ドンデン返しがあってオープニングにつながるんだとばかり思ってたんで、最後は主人公カップル二人と一緒にあっけにとられてしまいました。


ブッシュ:★★★
世の中の人が見たいものと監督が見せたいものがズレてしまったような気がします。オリヴァー・ストーンが見せた物語は偉大な父親に一生頭を押さえつけられた男の苦悩の物語でした。コメディでも風刺でも政治ドラマでもなく、いかにジョージ・W・ブッシュという男がsimple(単純)な人間かということを家族の葛藤のドラマとして描いています。父親に押さえつけられた男が唯一父親を超えるチャンス、それがイラク戦争フセインを倒すことだった、というある種、形を変えた父親殺しの話だと思います。でも観客が見たいのはそんなsimpleな男が何故大統領にまで登りつめることができ、その上再選までできたのかという政治とシステムの問題だったのではないでしょうか?ブッシュから政治を取り除いてしまったら、それは凡百の父と子の葛藤の物語にしかならないと思う。問題が矮小化されているような気がしました。


天使と悪魔:★★★
犯人の心の中に「天使」と「悪魔」がいるからこのタイトルなのかな?と思いましたが、原題は“Angels & Demons”と複数形なんですね。となると宗教と科学の対立項を天使「たち」と悪魔「たち」になぞらえてるんでしょうか?最初の悪魔も元は天使だったわけだから(ルシファー)、科学の根に宗教があるということかしら。映画そのものについてですが、反物質の扱いが軽すぎ。地球が無くなっちゃうよ!謎解きも前作と同じパターンで、ラングトン教授が一方的にサクサクと解決してくれちゃうのでワクワク感がありませんでした。イタリア&バチカン観光映画かな。


消されたヘッドライン:★★★
「消されてないじゃん!」という野暮なツッコミは置いとくとして。脚色に並んでる三人の名前(『キングダム』のマシュー・マイケル・カーナハン、『フィクサー』のトニー・ギルロイ、『ニュースの天才』のビリー・レイ)見たらどんな傑作ができるかとワクワクしてたんですが、これも期待値が高過ぎました。軍事請負会社のブラックウォーターの問題を背景に持ってきているのは非常にタイムリーですが、結局陰謀論的なものは世の中に存在しないという結末はいささかプラグマティックすぎるかな、と思いました。もう一つのテーマ、叩き上げのブン屋がブログでニュース屋を気取る若手を本物のブン屋に仕立て上げていく物語はお約束にすぎるかもしれませんが、娯楽映画のツボを押さえていて良い出来。


ラスト・ブラッド:★★★
アメリカ軍関東基地」ってまた大雑把なコト。原作どおり横須賀でいいじゃん。アクションはチャカチャカと早回ししすぎて軽すぎる。話もサヤのバックにいる組織の正体が結局最後までわからないのがマイナス。大体オニとオニゲンは日本のことなんだからアメリカ人が口出しするなといいたい。でも倉田保昭のアクションがみられたんで満足!何で誰も教えてくれなかったの?小雪より重要でしょう。


スタートレック:★★★★
TV版も映画版も今まで一度も見たことない人間ですが面白かった!SFならではのガジェットを使うことで、リセットされた新しく語り始める「スタートレック」でもなく、昔の「スタートレック」のオリジンでもなく、誰もが「新作の映画」として楽しめる作品になってます。はからずも偉大な父親とその息子という『ブッシュ』と同じテーマの話でしたがこちらの方が物語の持つ力は強いです。オリジナルのテーマ曲は知っているので、エンドクレジットで旧作のテーマ曲が今回のテーマ曲に発展するところには鳥肌が立ちました。マイケル・ジアッキノは間違いなく映画音楽界のフロントランナーの一人だと確信。あとJ.J.エイブラムスよ、日本でゴジラを撮ってはくれまいか?