6月の邦画

ハゲタカ:★★★★
『ルーキーズ』みたいなお子様脳向けの映画モドキ映画に大人の客が押し寄せて、こういう大人向けの社会派の作品に大人の客が見向きもしないというのは日本にとって不幸だ。完全にTVシリーズからの続きではあるが、そもそもドラマ版が映画を意識したつくりであったし、後述の理由から、ドラマの映画化ではあるが立派な「映画」である。この作品、チャイナリスクの問題に正面からがっぷりとりかかっている。中共がバックにあるNHKという放送局では絶対に放送できない内容。ITソースコード開示要求の件といい、クレヨンしんちゃんの商標の件といい相手はドロボー国家なのである。また、車会社の派遣切りデモの報道をスポンサーが怒るのを恐れて避ける放送局上層部という、スポンサー×民法の生ぬるい関係に足を踏み込んでいるのもエラい。TVでは出来ないことが出来るから映画である、という点からいけばこれは立派な「映画」だ(それも東宝の富山プロデューサーの肝いりである)。山崎豊子×山本薩夫コンビの社会派映画の系譜に続く傑作。


真夏のオリオン:★★
緊張感のかけらもない駄作。開巻早々に日本の潜水艦の生き残り(鈴木瑞穂だ!)とアメリカの駆逐艦の生き残りの息子の手紙を見せてしまったら、連中が最後両方とも生き残るって結末がわかってしまうじゃないか。策士対策士の知能戦に見えないのが痛い。潜水艦が故障しているのに危機感みたいなものは感じられず、役者に戦争の臭いもしない。途中で挿入されるかこの女との話も映画のリズムを狂わせる。岩代太郎はあいかわらずやっつけなスコア。邦画はもう戦争映画作れないんじゃないだろうか?


劒岳 点の記:★★
餅は餅屋というぐらいなので、そりゃ山はきれいに撮れてるが脚本も演出もまるで駄目。一流の大工が一流の建築家になれるわけではないのだ。エピソードが断絶されてて起伏に乏しい。結局なぜ二人の登山家が山に登るのか?そこが描けていない。この映画は山が持つ魅力と魔力についての話でもあるのに、監督は山さえキレイに撮っとけばそれで充分と思っている。魅せられた人間もしっかり描かなきゃ片手落ちでしょ。とにかく退屈でうっかりウトウトしていたら登山者が増えてて困った。あと登頂の瞬間をカットしてるのはどうかしてるとしか思えない。
念のために描いておくが、筆者は木村大作が最高のカメラマンだと思ったことは一度もない。むしろ退屈な映像を撮るカメラマンという印象だ(『誘拐』のカメラワークのつまらなさよ。映画自体は最高だったのに)。


いけちゃんとぼく:★★★☆
オチを頭でバラすのはバカだよね。まぁ予告で明かしちゃっていたのでハナからサプライズエンディングにする気はなかったのだろうけど。「イマジナリーフレンズ(脳内友達)」モノだと見せかけて実は・・・、というのが原作の肝だったんではなかろうか(『恨ミシュラン』以来のサイバラファンなのだが、原作は何故か未読。多分本のサイズのせい)。
但しあとはおおむね佳い映画だったという印象。世界中で不幸な子供を見てきたサイバラらしい、世の理不尽に直面する主人公像。暴力の連鎖を止めるのは暴力ではないという、戦場カメラマンだった夫を持った女らしいメッセージ。サイバラが子供に伝えたいことが詰まった作品で、監督はその意図をそつなく汲んだと思う。
作品の評価を上げたいのは蒼井優の名演によるところが大きい。蒼井優よ、しばらく声優業に専念してみちゃどうか?顔出しのやくよりよっぽど豊かな表現を声でしているよ。