ロビン・フッドに救われる

ロビン・フッド:★★★★
監督:リドリー・スコット
脚本:ブライアン・ヘルゲランド

リドリー・スコットにとっては『キングダム・オブ・ヘブン』以来の傑作。★一個足りないのはジマー成分が足りないという理由だけ。
ここ最近映画とはいえないようなシロモノを見せられ続けてきたので、感想を書く気もおきず、このまんまサイトが自然消滅してしまうのではないかという危機感すら持っていたのだけれど、そこに颯爽と現れたのがこの作品であります。実に、実に豊かな映画だった。その「豊かさ」というのは映像の豪華さとは違って、マンパワーがギリギリまで使われているという動員された人間の力が映像に現れているところをもってしての「豊か」さ。俳優の顔も個性にとんで「豊か」。そして物語のシンプルでありながらぶれることのないヒーローの創造にかける語りも「豊
か」。
グラディエーター』『キングダム・オブ・ヘブン』の流れに連なるエピック三部作の最終章は、前2作と同じく、虐げられた人々を率いることを運命づけられた男が世界と向き合う姿を描いた話だった。今回はともすればならずものにすらなりえた男がひょんなことから英雄になる運命の面白さに注目している。ただ、それも運命のいたずらではなく、英雄になる器の男だったという運命論的なところから描いているところに注目したい。
君主とは国民があってはじめて存在できるものであり、君主があるから国民が存在できるというのは驕りであるという君主論。十字軍を通したイスラム社会への目配せ。全てが現在の社会(特にアメリカ)に通じている。特に『キングダム〜』から顕著だった外社会を使ったアメリカ批評になっている。
映画としては冒頭からロビン・フッドの物語で重要な人物に災難が起こって特にケビン・コスナー版見ている人は驚く仕掛け。ここから一気に映画は「新しいロビン・フッド」の叙事詩を語っていく。ジョン王はわかりやすい愚弟で、その友でありフランスに通じた家臣の残虐さはロビンのヒーロー性を際立たせる。これぞ映画ならではのケレン。リドリーの執念ともいえる『プライベート・ライアン』への目配せ的な浜辺での激突。黒澤へのこだわりとしてはオープニングに『蜘蛛巣城』の城落とし、ラストに『七人の侍』の雨の中の激突を浜辺の潮で表現したところが見られる。
こんなわかりやすく面白い大作に全然客が入らない日本の映画業界ってどうなの?と思ってしまった。