バンテージ・ポイント

バンテージ・ポイント(Vantage Point)
★★★☆
監督:ピート・トラヴィス
出演:デニス・クエイド, マシュー・フォックス, フォレスト・ウィティカー, シガニー・ウィーヴァー, ウィリアム・ハート

大統領暗殺と言う1つの事件を8人の異なる視点から描く、というフレコミで公開されたこの作品。もちろん映画好きはこのシチュエーションを聞くと黒澤の『羅生門』を思い浮かべるわけだが、このフレコミ、実は看板に偽りアリで、本作品は1つの事件に関わる8人をそれぞれの時間軸で描く、という構成なのである。だから『羅生門』的な「1つの真実が各々の真実として主観的にバラバラに描写される」タイプの作品ではない。
で、それぞれの人物のエピソードだが、各々がクライマックスを迎える直前で次のエピソードに切り替わっており、クリフハンガー方式が何度も繰り返される非常に贅沢な構成である。そして終盤テロリスト側からのエピソードとデニス・クエイドのエピソードが交差するところでクライマックスを迎える。のだが、美味しいところを持っていくのがフォレスト・ウィティカーなのはやはりその顔から漂う人徳のよさからなのだろうか。一方でシガニー・ウィーヴァーは華が無さ過ぎて泣けてくる。ちょっともったいなさすぎやしないかい?デニス・クエイドは、おそらくこの作品が目指したであろうスタイルの『24』のジャック・バウアー並にタフ。

アメリカ大統領を狙ったテロ、という非常に政治色が濃くなりそうな内容であるのに、この作品のテロのバックグラウンドや大統領の思想と言うものがほとんど描かれておらず、終始物語は「事件」のみを追いかける。この辺娯楽映画に徹する姿勢を貫いた結果だとは思うが、今のアメリカを取り巻く状況を考えると、現実には目を向けない製作者の弱腰の姿勢と思えなくもない。あえて指摘するとすれば冒頭の反アメリカデモをカメラが映さないように指示するシガニー・ウィーヴァーの姿がアメリカの報道姿勢の一端を示しているのかもしれないが。

このテの作品に付き物のちゃぶ台返しが中盤にあるのだが、2ちゃんねるの関係ないスレッドを読んでいたら、それこそテロのようにネタバラシが書いてあって、その驚きが味わえなかった。ネットに依存しすぎた弊害とはいえ非常に腹立たしい限りである。中盤の展開を知らなかったらもう少し楽しめたかも。