ノーカントリー

ノーカントリー(No Country for Old Men)
★★☆
監督:コーエン兄弟
出演:トミー・リー・ジョーンズ, ハビエル・バルデム, ジョシュ・ブローリン, ウディ・ハレルソン

ネットや雑誌媒体では大絶賛されているし、なによりアカデミー賞の作品賞・監督賞・脚色賞と重要なところを全部かっさらってしまった作品なので、否定的意見を言うのははばかられるような気がしますが、すいません、自分には合いませんでした。どうやらコーエン兄弟の演出スタイルそのものがダメみたい。

この映画の風景を雪景色にして追いかける捜査官を女にすると『ファーゴ』になるわけですが、あの作品にあったとぼけたユーモアのセンスが今回まるでなくて、ひたすらにチリチリとした妙な緊張感が続きます。

物語中盤まで時代設定が1980年ということに気がつかなかったんですが、この時代だということがわかった瞬間、原題の"No Country for Old Men"の意味がわかりました。ハビエル・バルデム演じる殺人鬼・アントン・シガーは金目当てでジョシュ・ブローリンを追いかけてくるわけですが、彼は金目当て以外でも殺人をとにかく重ねていきます。まるで呼吸するのが生きるために必要なように、殺人が彼が生きるためには必要なように見えてきます。とにかく執拗に続く「動機のない殺人」。終盤ジョシュ・ブローリンの妻役のケリー・マクドナルドが"You don't have to do this."「殺す必要はないわ」とあきらめきった表情でシガーに語りかけますが、シガーは必要がなくても殺人をする人間です。それまでの常識から完全に外れたシガーのような存在が跋扈するようになってしまったアメリカ、そこにはかつての規範に従って生きるトミー・リー・ジョーンズのような老人が住む場所はない。だから"No Counry for Old Men"(老人には居場所はない)。2007年が舞台ならそんな不条理な殺人を犯す人間なんて珍しくもないですが、80年代も初頭ならむしろ珍しいわけで、古きよきアメリカの常識が通用しなくなっていく時代を象徴する存在としてシガーは殺人を重ねていくのだと思いました。

さて、そのシガーの殺人ですが、序盤から中盤にかけてはパスパスと華麗な殺人術を見せてサイコものとしての面白みを見せてくれるのですが、一番肝心のラストが「使用前」「使用後」といったような描写で肝心の殺戮シーンを見せてくれません。この辺の肩透かし感がこの映画に殺人映画のエクスタシーを感じられない所以なのかもしれません。

ところでトミー・リー・ジョーンズ、今回4回コーヒーを飲むタイミングがありながら一度も口にしていないんですが、やっぱりアレですかね、日本の缶コーヒーの味を知った口にはアメリカンは合いませんか?