クローバーフィールド/HAKAISHA

クローバーフィールド/HAKAISHA(Cloverfield)
★★★+☆(エンドクレジットの音楽で)
製作:J.J.エイブラハムズ
監督:マット・リーヴス

「リアルな怪獣映画」というのは怪獣映画ファンなら誰しも夢見るものだと思うのですが、この作品はその「リアルな怪獣映画」を実際に市井の人のカメラ視線で作ることに成功しています。ところが「リアルな怪獣映画」が果たして「怪獣映画」としての興奮を作り出す結果になるかどうかには疑問符がついてしまいました。何しろこの映画で一番の燃えどころがエンドクレジットのマイケル・ジアッチーノによる“伊福部昭バンザイ!”なテーマ曲がかかるところだからです。
この映画、「リアル感」を出すために登場人物が持っているビデオカメラの視点で映画が進み、それであるがために怪獣や、ニューヨークの状況に関する情報は非常に断片的です。ここには911時の断片的なニュース速報の記憶を呼び起こすリアリズムがありますが、怪獣映画的な「燃える」部分がありません。それは結局のところ怪獣が大暴れするシーンに音楽が全くかかっておらず、さらに本多猪四郎以降の怪獣映画がもっている全体を俯瞰で捉える視点が欠けているからだと思うわけです(日本の怪獣映画は俯瞰で物語を捉えるために主人公が新聞記者だったり軍人だったり科学者だったりと、物語の全体を捉えられる位置にいるのが象徴的ですね)。
こうともいえます、この映画、リアリズムを追求している割に最後にエンドクレジットが出ていかにも怪獣映画な伊福部節バリバリの曲がかかるわけですが、この部分でこの映画はリアリズムを失い、作りもののフィクションであるという馬脚をあらわしてしまいます。
怪獣映画としてのダイナミズムを出しつつ、リアリズムも追求するという点、そして911のショックを怪獣映画という形で表現するという点ではスピルバーグの『宇宙戦争』が一枚も二枚も上手だったな、と思うしだいです。
結局のところ宣伝が勝負の作品だったのでアメリカ公開からタイムラグあった上にユーチューブ他の関連映像がほとんど日本国内では話題を呼ばなかったので、盛り上がり損ねたというのが正直な感想です。
でもジアッチーノの曲はいい!この人は『Mr.インクレディブル』といい『エイリアス』といい、ジャンル映画のツボをわかった曲を作ってくれるので大好きです。