フィクサー

フィクサー(Michael Clayton)
★★★★
監督&脚本:トニー・ギルロイ
出演:ジョージ・クルーニー, トム・ウィルキンソン, ティルダ・スウィントン, シドニー・ポラック(←そろそろ自分で映画を撮れ!)
音楽:ジェームズ・ニュートン・ハワード

あぁティルダ・スィントンのあの冷徹な目で軽蔑のまなざしを一身に受けたい!『コンスタンティン』のガブリエルや『ナルニア国物語』の白い魔女と冷たい女をやらせたらピカイチの女優。今回の良心の一片もない法律顧問なんて適役中の適役。冷酷な判断をする度に見てるほうはゾクゾクしてきましたよ、マゾ気質が刺激されて。

と、冗談はさておき。ジョージ・クルーニーが乗っていた車がドカンと爆発、というオーニングで、トニー・ギルロイと同じ脚本化出身の監督スティーヴン・ギャガンの『シリアナ』を思い出してしまいました。『シリアナ』同様にこの作品、序盤はなにやら観客置いてきぼりな感じで物語が進んでいきます。映像とシンクロしないトム・ウィルキンソンのモノローグ。テンポよい編集で切り替わる法律事務所の喧騒。時間軸が前後して同じ台詞を練習するティルダ・スウィントン。そしてジョージ・クルーニーの掃除屋としての仕事。そんな嵐のような状況の果てに車が爆発。この映画に果たしてついていけるのかと不安になったところで、物語は4日前に戻り、オープニングでちりばめられた物語の断片が見事に一枚の「農薬の有毒問題の隠蔽」という恐ろしい絵へと完成されていきます。無意味に画面を揺らしたりロングショットにしたりと、空回り気味だった『シリアナ』の演出とは対照的に、トニー・ギルロイの演出は必要なショットをちゃんとおさえ(例えば非人間的な世界からジョージ・クルーニーの命を救うことになる風景に繋がる『王国と征服』の馬と木の絵とか)、それでいて編集はテンポがよいという、どちらかといえばポール・グリーングラスを思わせるものです。

監視、盗聴、機密情報、隠蔽工作と、法律事務所とモミ消し屋(フィクサー)の物語でありながら、背骨には『ボーン』3部作で鍛え上げられたスパイ映画の恐怖と面白さがある作品だったかと思います。
また、非人間的な法曹界のパワーゲームの中で良心を取り戻し解脱する寓話的な要素もあり、この点では『ディアボロス』が通じるところがあるかな、と。
総じて、トニー・ギルロイの監督デビュー作は、脚本家トニー・ギルロイとしての集大成として完成されたと思います。

ただ問題があるとすれば邦題!『フィクサー』なんてご大層なタイトルですが、日本人には“裏を取り仕切る大物”というイミで捉らえられてしまうのではないでしょうか。仮にfixする人、ということで“掃除屋”とイミを理解したところで、映画中の重点は“掃除屋”としての仕事よりもマイケル・クレイトン(原題)の良心と法律事務所の規律との板ばさみになった状況を描くことにあるので、的外れな邦題だなぁと思わずにいられません。