大いなる陰謀

大いなる陰謀(Lions for Lambs)
★★☆
監督:ロバート・レッドフォード
脚本:マシュー・マイケル・カナハン
出演:ロバート・レッドフォード, メリル・ストリープ, トム・クルーズ, ピーター・バーグ

3つの舞台で物語が進む、重厚な(はずの)政治ドラマ。1つ目はロバート・レッドフォード演じる大学教授が、将来性があるのに厭世的になり授業に出なくなった生徒を説得するパート。2つ目はトム・クルーズ演じる共和党上院議員メリル・ストリープ演じるニュース記者にアフガニスタンで実行される作戦をリークするパート。3つ目はそのアフガニスタンでの作戦中に敵地に放り出されたレッドフォードの元生徒たちの苦闘を描くパート。

原題の“Lions for Lambs”とはどういう意味なのだろう?と鑑賞前に辞書を引いたのだが出てこない。どうやらイディオムではない、本編中で説明される映画オリジナルの言い回しらしい。で、実際に説明されるのだが、「羊に率いられたライオン」ということで、現場経験のない政治家が、力のある軍隊を率いる状態を揶揄してこのタイトルになっているようだ。メリル・ストリープがラスト、車中からホワイトハウスを眺め、次に軍人たちの墓場に眼をやるのは、この状況が無駄な死者を出し続けてきたのだ、というイラク戦争に対する明白なメッセージだろう。

しかしこのタイトルは、もうひとつの状況を言い表しているとも言える。それがメリル・ストリープトム・クルーズのパートに当たる。本来ならば民衆は世の中を動かす力があるライオンであるのに(ベトナム戦争の頃を思い出すといい)、ホワイトハウスの発表するニュースを垂れ流す羊になりはてたマスコミに率いられる無関心な集団になってしまった。現実の世界で起きる重要なニュースよりも、タレントのくだらないゴシップの方がテレビで優先して放映され、そのことをなんとも思わない民衆の無関心は政治家たちに力を持たせ続ける。

そして羊であるホワイトハウスの駒になったレッドフォードの教え子たちの決断を聞いて、厭世的だった生徒が何かを決意したところで物語は終わる。

かように3つのエピソードが有機的に結びつき、タイトルが自己内省のテーマを浮き彫りにしたしっかりした脚本なのだが、撮影と編集が凡庸、というか全体的に演出がもっさりしていて切れ味がなく、わずか90数分の映画なのに、120分近くに感じてしまった。7年間のブランクで演出勘が鈍ったか?基本的に会話劇なので、カメラワークや編集を工夫してくれないと動きが感じられずテンポが遅く感じてしまうのだ。あと、メリル・ストリープのキャラにせよ、レッドフォードの生徒にせよ、トム・クルーズのキャラにせよ、その後彼らがどういう行動をとっていくのかが実は重要なのだが、この辺を映画は語らない。オープンエンドといえば聞こえはいいかもしれないが、助走でエネルギー使い切ったともいえる。

凡庸な邦題だが、演出のせいで内容も凡庸になったもったいない映画だったかと。

ちなみにアフガニスタンの現場を指揮する中佐はピーター・バーグが演じている。で、この映画の脚本はマシュー・マイケル・カナハンが執筆したものということで、去年の大傑作『キングダム/見えざる敵』のコンビがこんなところで再びクレジットされている。監督をピータ・バーグがやってたらまたずいぶん違う印象になったと思うのだが。