クレヨンしんちゃん ちょー嵐を呼ぶ 金矛の勇者

クレヨンしんちゃん ちょー嵐を呼ぶ 金矛の勇者
★★★
監督&脚本:本郷みつる

基本的に映画を見るというのは楽しむための行為なので、わざわざつまらないことが予想できる作品は見ないようにしている。変に感動方向に物語を持っていこうとして映画が空中分解してイマイチだった水島努の『夕陽のカスカベボーイズ』(12作目)、絶望的につまらなかったムトウユージの『3分ポッキリ大進撃』(13作目)と、2回連続でスカクジを引いてしまったために、ここ最近の2作からは足が遠のいていた本シリーズだが、そこに福音のごとく「本郷みつる復帰!」のアナウンスである。これが期待せずにいられようか!

異次元世界の現実世界への侵入とその侵入者としんちゃんの対立という話のモチーフは本郷みつるが監督したしんちゃんシリーズ中では最高傑作である『ヘンダーランドの大冒険』に非常に近い。特にマックとプリリンがやってくる夜中のシークエンスはス・ノーマン・パーの登場を思わせるものがある。また登場人物に歌を歌わせるのも本郷作品ではおなじみだ。だが、例えば重要なキャラとして出てくるクロが終盤までまるで話に絡まなかったり、マタの大切なドラマが口頭で簡単に説明されるだけだったりと全体的にはツメが甘く、『ヘンダーランド』ほどの冴えを見せる作品にならず、よく出来た子供映画レベルにとどまってしまった印象。

もっとも丁寧な日常描写(例えば満員電車内の不快なシャカシャカ音とか)を積み重ねているので、後半アセ・ダク・ダークが作り出す世界の理不尽な正義ぶりが磨きがかかってギャグとしてちゃんと機能しているし、バカみたいに書き込んだコンテや、天才バカボンの背景画みたいなシュールなマックの世界の風景など、作画で笑いをとるところも多く、マイナス点ばかりではない。個人的にはあからさまなマーケッティング重視のアニメ作りを皮肉ったアクション仮面ソード登場シーンが『トゥルーマンショー』を思わせてツボにはまった。また、ドッグファイトやカーチェイスなど、盛り上がるところはしっかり力を入れて激しいアクションを見せている。

原恵一作品のせいでいつの間にか期待のハードルが高くなってしまった本シリーズ、今回の作品は『3分〜』よりは見られる作品になっているけど、「大人も楽しめるクレしんブランド」という見地からいくと、平均点で収まってしまってやや残念な気がする。ただ、変に感動や家族愛を唱える気持ち悪い作品にならなかったことは幸いである。来年も本郷監督ならカンが戻って傑作が作れると思うのだがどうだろう。