相棒-劇場版- 絶体絶命!42.195km 東京ビッグシティマラソン

相棒-劇場版- 絶体絶命!42.195km 東京ビッグシティマラソン
★★★
監督:和泉聖治
脚本:戸田山雅司
出演:水谷豊, 寺脇康文

人気ドラマシリーズの映画化です。自分は1シーズンにつき1、2話。ゲストが豪華なとき(例えば第5シーズンの星由里子とか。東宝映画好きにとっちゃ豪華なんですよ!)に見るぐらいでそんなに思い入れがある作品ではありませんが、東映にとっては『男たちの大和』以来の大入り作品ということで「こりゃ大事件だ」と見てきました。

テレビ屋さんが作った映画というのはTVドラマの文法で制作に臨むので、どうにも映像が貧相で「こんなんTVでやれよ」と思ってしまいます。去年の『アンフェアthe Movie』なんか特にひどかったですね。未見ですが『クロサギ』も予告からして安い映像でした。その点、今回の『相棒』は元々映画屋である和泉監督がTVドラマを映画化したものだけあって、映像的に「映画的」でした。なにをもってして「映画的」というのかは難しいですが、例えばクレーンやドリーを使った立体的な画作りが例として挙げられるでしょうか。あとセットもTVの延長線上ではなく、映画的に大きな、質感のあるものになっています。捜査本部のセットの広さや照明の当て方なんか「映画的だなぁ」と思いましたよ。エンドクレジットの空撮も素晴らしいです。さらにTVシリーズを殆ど見ていない自分のような人間でも内容が理解できるように、人間関係がこの作品に絞られて描かれているので、一本の映画として評価の対象にできると思います。もちろんTVシリーズを通しで見ている人にはうれしいくすぐりが沢山あるのでしょうが。

自分は頭がそんなによろしくないので映画を見ている間は気づかないのに、後になって、例えばこの感想文を書くために思い返してみてツッコミどころに気づくということが多いのですが、今回の『相棒』はそんな作品でした。見ている間は面白く見られたのですが、素に戻って思い返してみると、犯人がやっていることが目的を達成するにはあまりに遠回りで、そもそも処刑リスト(ここは予告で使われてるのでネタバレにはならないと思うのですが)を使った犯行や、東京ビッグマラソンをテロの標的にする必要なんてないんですね。犯人が捕まる直前にとった行動だけで全てことが足りてしまう。つまり映画で出てくるギミックがギミックのためのギミック、トリックのためのトリックになっているんです。おかげで話は「映画的」な大きさを持って、見ている間は面白く見られるのですが、思い返してみるとツッコミどころ満載になってしまいました。大体犯人はチェスの名人が警察にいなかったらどうするつもりだったんでしょうか?あと「ゲームのように殺人をしている」犯人像とラストの犯人像があまりにブレすぎています。

それからこの映画は過去に起きたある事件に明らかにインスパイアされて脚本が書かれているのですが、そのインスパイアのされ方が製作元のテレビ朝日の思想を悪い意味で反映した、赤―い色が滲み出た政府陰謀論で、ちょっと鼻白んでしまいました。その事件と映画の犯行の背景にあるケースは似ているようでいて根本が全く違うのでアナロジーになっていません。もっとも、今起きている事件だけに目を向けて、ちょっと前に起きた大事件のことなどすぐ忘れてしまう日本人の特性を糾弾するメッセージ性をエンターテイメント作品に組み込む点は高く評価できますが(餃子事件なんてもう過去の話ですもんね)。

結論としては、訴求力がある上で、見ている間は楽しめる最低限のエンターテイメント作品をようやく東映が作ってくれてほっとした、というところでしょうか(去年があまりにヒドすぎたので。『茶々』なんてあまりにひどくて内容覚えてないぐらい)。てなことで、おひねりの気持ちも含めての★★★です。