最高の人生の見つけ方

最高の人生の見つけ方(The Bucket List)
★★★☆
監督:ロブ・ライナー
出演:ジャック・ニコルソン,モーガン・フリーマン

『生きる』がハリウッドでリメイク!というニュースを聞いたとき、世界中の映画ファンの多くが主演はモーガン・フリーマン以外にいないと思ったに違いない。いや、映画ファンならそう思うべきなのだ(断定)。それぐらいモーガン・フリーマン志村喬は似ている。顔だけでなく映画内における、ある種の達観した視点を持った人物という性格付けもよく似ている(もちろん志村喬が悪役の映画があることも知った上で書いてはいるが)。
ということで今回の作品の粗筋、余命6ヶ月と知らされた老人が人生でやり残したことを悔いの残らないようにやり遂げていくという話を聞いたとき、こりゃ『生きる』のリメイク版の主役をトム・ハンクスなんぞに取られたモーガン・フリーマンが自分版の『生きる』作るぐらいの気持ちで臨んでやがるな、と思ったのだが、見た作品は想像していたものとはまるで違う作品だった。
といって悪い意味ではなく、ナルホドそうきたか、と感心したぐらいだ。この作品が焦点を当てているのは、家族のために身を粉にしてきた男=モーガン・フリーマンの最後の6ヶ月間が、金のために何でもしてきた男=ジャック・ニコルソンの最後の6ヶ月間にどのように良い影響を及ぼしたかにあるのだ。この点、家族主義の国の映画なのだな、と痛感させられた。家族のために尽くしてきた男は金持ちの偏屈と一緒に世界を見てまわるが、最後には自分を迎えてくれる家がある。これ以上の幸せがあるだろうか。ジャック・ニコルソンは物質的には恵まれているが、家に帰っても温かく迎えてくれるものが誰もいない。
モーガン・フリーマンの手紙でジャック・ニコルソンは物質主義の資本家からファミリーマンに変わる決意をする。そして「赤の他人に親切をする」ことも覚える。モーガン・フリーマンに充実した人生の終わりを見せられ、自分の人生の終わりの「ありうる空しい最後」に気づいて彼の態度は変化する。これはディケンズの『クリスマス・キャロル』を思わせるストーリーだ。モーガン・フリーマンは神を演じたことがあるし、実際自分は神だと信じて疑わないが(笑)、この作品では『クリスマス・キャロル』の精霊の役割をもって、ジャック・ニコルソンに『最高の人生の見つけ方』を教えるのだ。物語がモーガン・フリーマンの語りで始まり、そして彼の語りで終わるのは、彼がこの作品の精霊的存在だからだろう。
ということで、「モーガン・フリーマンの『生きる』」を見に行ったら「ジャック・ニコルソンの『クリスマス・キャロル』」を見せられた、と思った次第。
人の死で泣きのツボを押すのは簡単なことだが、この映画はそんな安易なことをせず、涙よりも笑いで爽やかな気持ちにさせてくれる佳作である。