チャーリー・ウィルソンズ・ウォー

チャーリー・ウィルソンズ・ウォー(Charlie Wilson's War)
★★★
監督:マイク・ニコルズ
出演:トム・ハンクス, ジュリア・ロバーツ, フィリップ・シーモア・ホフマン

テキサス選出の酒飲みエロ田舎議員がエジプトとイスラエルを手玉にとってアフガニスタンイスラム教徒たちに武器援助をしてソ連のアフガン侵攻を止めたという瓢箪からコマ的な物語。
物語りも終盤、アフガン撤退のニュースが流れる中ベランダでトム・ハンクス演じるチャーリーとフィリップ・シーモア・ホフマン演じるCIAの局員が「馬と少年」の話をしている。日本語で言うところの「人間万事塞翁が馬」の話である。そしてアフガンに過激派が集結し始めているというくらいニュースと「いずれわかるさ」というホフマンの台詞。バックには飛行機のエンジン音。勿論これが何を指しているかは言うまでもなくて、チャーリーが鍛えたアフガンの戦士たちはタリバンとなって911を起こした状況を暗示しているのである。
チャーリーが政治家たちを手玉にとって善意でアフガンを救おうとするシーンはコメディタッチで描かれているのだが、このラストに引っ張られたためか、全体を見回してみると演出のトーンが時にシリアスだったり時にシニカルだったりとバラバラで統一感がない。チャーリーが一人ですべてを動かしたという奇跡とその後の悲劇の間で映画がバランスを失ってしまったような感じだ。
この作品に必要だったのは、チャーリーが起こした奇跡が悲劇に終わるところまでをも笑い飛ばすスピード感と言うか、達観した皮肉な演出、言い換えればグルーヴ感が必要だったのではないだろうか。確かにオープニングとエンディングで同じ表彰シーンが持つ意味合いが物語を通して変わって、アイロニーを生み出してはいるが、パンチ力に乏しい。
もっとも尺が短いので(120分ないのだ)、物語のテンポはよすぎるぐらいで、ジュリア・ロバーツ演じる大富豪のバックグラウンドがよくわからなかったり(元々石油富豪の未亡人でそれが縁でパキスタンとコネがあったそうだ)、フィリップ・シーモア・ホフマンのキャラクターが物語が進むにつれて影が薄れていったり。
演出のシニカルなものに統一し、時間をかけて丁寧に人物を描けば傑作になりえた作品だと思うのだが。