ハプニング

ハプニング(The Happening)
★★★
監督&脚本:M・ナイト・シャマラン
出演:マーク・ウォールバーグ, ズーイー・デシャネル, ジョン・レグイザモ
音楽:ジェームズ・ニュートン・ハワード
撮影:タク・フジモト

何気ない物語もどこかで人と繋がり持ち、結果的に世界を変えることも出来るのだというのが『レディ・イン・ザ・ウォーター』のテーマでした。物語が持つ力を信じた非常にナイーブな作品ですが自分はとてもよい映画だと思います。で、この「物語が世界を変えることが出来る」というテーマを実践したのが今回の『ハプニング』なのではないか、と思った次第です。ネタバレにならない程度に書くと、この映画は言うなればシャマラン流の『不都合な真実』です。人間の驕りがこのままではあるものたちが人間に刃を向ける結果になると映画は語っています。シャマランはこの映画を見て、ある問題について観客の中の数人でもいいから考えて、そしてその問題を解決するための方法を模索して欲しいのではないでしょうか。
映画に終始つきまとう緊張感の演出はさすがです。何もないところ、一陣の風に恐怖を感じさせる演出力はやはりシャマランが一流の演出家であるところを物語っています。また、今回初のR指定作品ということでいたるところにステキ映像が挿入されてます。iPhoneのシーンはこれが発売されたばかりの日本のユーザーへの嫌がらせと思えるほどステキ。世界の終わりがある日突然やってきてその正体が何なのか皆目見当も付かない、というプロットはどこか『ミスト』を思わせます。
しかし「夫婦の邂逅」というもう一つのテーマを消化し切れていないのがこの作品の弱点かと思います。終盤、二人が取る行動が思いのほか感動的にならないのは、そこに至るまで二人の関係の修復の描き方が浅いためでしょう(ジェームズ・ニュートン・ハワードはいつものシャマラン作品に倣って非常に的確なスコアを提供しているにもかかわらず!)。それから今回の作品は同じく世界の終わりを一軒の家の視点から描いた『サイン』のようなユーモアがないのが残念なところです。
最後にオチについてですが、『レディ・イン・ザ・ウォーター』の頃からドンデン返し落ちがないオチの作り方をシャマランは模索しているのではないかな、と思いました。言うなればドンデン返らないところが今作の最大のドンデン返しであった、と。ヤン・マートルの『パイの物語』をシャマランが映画化するという話がありましたが、あの頃からオチに観客の興味が行きがちな自分の作風を変えたいという気持ちがシャマランにはあったのではないでしょうか(『パイの物語』もドンデン返し風なオチがつくのですが、それまでのシャマラン作品とは違う感じのツイストなので。ちなみに現在はこの企画ペンディングになってます)。次回作はこれまでと作風が全く違う、アニメを原作としたものだそうですが、シャマランの作風の変化の模索が吉と出るか凶と出るか今から楽しみです。