おくりびと

おくりびと
★★★☆
監督:滝田洋二郎
脚本:小山薫堂
音楽:久石譲
出演:本木雅弘, 広末涼子, 山崎努, 余貴美子, 吉行和子, 笹野高史, 杉本哲太

納棺師という一風変わった職業を扱った作品。山崎努をNK社の社長に置いているところから、この作品の目指した先には伊丹十三の『お葬式』があるのは明らか。つまり沈みがちな葬式という儀式を笑いでとらえるスタンスである。これはもうオープニングの納棺の儀式からはっきりとコメディだということを明示しているのだけど、伊丹作品にあったニヒリズムはなく、後半に進むほど大船調の泣かせのドラマになってしまい、前半のユーモアが薄まっていく。ふぐの白子を食べるシーンの「こまったことにうまいんだよなぁ」という食へのこだわりは伊丹映画を髣髴させて好きだが。
とまれ、死とは穢れではなく、新しい生への門であるというある種荘厳なものとして死を受け入れる展開は面白い。それに師匠が弟子に術を伝授していくという日本映画のテンプレートをきちんと踏まえているところは好感がもてる。それだけに、父親との邂逅というサブプロットがあまり活きていないので、この辺はバッサリ切ってでも、山崎から本木が何を学んだかをもっと前面に出すべきだった。

問題は久石譲の饒舌な音楽。この人、宮崎映画や北野映画ではいい仕事をするのに、他の監督と一緒に仕事をすると音楽が前面に出すぎて感動の押し付けになってしまう(例:田中麗奈の『はつ恋』はひどかった)。中盤以降の過剰な音楽演出には辟易(逆に音楽が控えめな前半は良い)。主人公の本木がNK社の2人の前でチェロを弾くシーンのバックにハープの音まぜてるところなんてバカじゃないかと思ったぞ。ラストの父親の納棺シーンに音楽は不要。音楽を入れることによって「さぁ感動しろ!」という押し付けになるから。音楽がなくても本木の堂に入った納棺の儀式であのシーンは引き締まっていたはず。基本的に役者の演技や映像の力を信用していないのではないかな、とすら思ってしまった。佳作だけに残念。